High Fantasy──何でも思い通りにできる世界で未来が決まっていた
何でも思い通りにできる世界で記憶がない! 少女は出会った香恵から自分の名前「美鈴」や詳しい状況を聞かされるも、「思い通り」がもたらすのは最悪の結末だった。美鈴の未来は?
何でも思い通りにできる世界と知ってやりたいことをわんさか考えたら、全てこの世界に却下された。人にじゃない、世界に。つまり失敗したってこと。せっかくその幸せを享受しようと痛い頭を働かせたのに、何だ教えてくれた人はみんな嘘つきだったのか。
いや、分からない。実は私、別の根本的な問題を抱えているのだ。
「あなた、名前は? やっぱり分からない?」
二番目にこの世界のことを教えてくれたお姉さん。私は記憶を失ってしまっていた。
だからここが何でも思い通りにできる世界だとは知らず、すれ違う人にどこか訊ねたら場所ではなく特徴が返ってきた。おかげで半分喜び残りは不安でいっぱいだけど、誰もが思い通りになったと話してくれる。ただ、幸せかどうか訊かれて曖昧な笑みしか浮かべない人もいて、まあそういうものなのだろう。
そんななか、私に予期せぬ〝仲間〟が現れた。突然後ろから「ちょっと、美鈴?」と声を掛けてきた少女で、名前は香恵。彼女は私──美鈴と以前からの知り合いらしく、この世界について「何でも思い通りにできるったって、『何でも』というのは『どんなことでも』というだけで、一度しか決められないの」と教えてくれた。
「でも私、最初の一つもだめだったよ?」
それは記憶を取り戻すことだった。いまだ何も戻らず「美鈴」と言われても感傷などちっともわかず、本当に自分の名前か判断できない。
「それはだって、美鈴が前の世界で決めたことだもん。ここへ来てからは選べない」
「前の世界で? 私、違う世界にいたって……? 誰もそんなの、教えてくれなかった」
そうなのか──、もう選べないことより世界を移動した事実に愕然とする。私は何を思い通りにするか決めた上でこの世界に移り、途中で記憶を失ったんだ。香恵がくすり笑みをこぼし、「まあ、あんたが勘違いして喜んだの見て、本当のこと言えなかったんでしょ」と考えを明かす。それから彼女は私に残酷な言葉を残して姿を消した。
「いいこと教えてあげる。弱虫な美鈴は死にたがりで、それでも死ぬ度胸がないから、この世界で思い通りに死のうとしたのよ」
え? 私は衝撃で驚きの声さえあげられない。何でも一つだけ思い通りにできる世界に行く際に「死」という最悪の〝思い通り〟を選んだ? 分からない。覚えてない。そんなに死にたかった過去って? ああ私に何があったというのだ、死にたい理由まで忘れて頭は痛くとも肩は清々しいくらいだというのに。地面にがくり膝をついた目の前が暗くなり、今自分がこの世界にいる恐ろしさに気づかされる。
私には死が迫っている。
そんな思い通り、いらないよ。
私は再び立ち上がろうと足に力を込め、涙をためた顔のそばを落下する虫にぎゃっとなった。軽い墜落音をたてて〝涙〟を失った亡骸。死んだのか、終わってしまったのか。きっと私も──あれ? 疑問が浮上してくる。
今の私、どうして全然死にたくないのだろう。私は今間違いなく生きたいと願ってる。単に死にたい理由、気持ちまで忘れたからだとして──、それでも死ぬのだろうか。
私はそばの斜面に立ち、空の淡い雲に顔を向ける。この世界に来たらもう思い通りに死に向かってるんじゃないのか。私は生きたい、死にたくなんかない。生きたいんだって!
刹那、香恵のいやらしい笑みが脳裏に浮かびはっとする私。まさかあれは……、からかわれた?
もしかしたら私は、死にたがりの美鈴にこの世界で生きたがらせようとしたのかもしれない。だから生きたい、今ここで。これが私の本当の〝思い通り〟なんだよきっと!